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「あー、緊張した」
 校門を越えたところで、彼女が伸びをする。
「引っ越し初日からはしゃぎすぎた?」
「そんなことないよ」
 歩き出すと、思い出したように彼女が腕を絡めてきた。
「あとは、いつもの下校ルートで帰るだけかな」
「どんな所を通るの?」
「このまま山を下って、川沿いに歩いて。それから公園の角を曲がって……」
「うーん、だめ。全然思い出せないよ」
「幼稚園の時とは活動エリアがずれるからね」
「というか、ほとんどどちらかの家で遊んでたよね」
「うん、そうだった」
「たまに公園まで出かけることもあったけど、男の子たちが『アイツはいつも女の子と遊んでいる』ってちょっかいを出してきて」
「そんなことあったっけ」
「だから、公園で遊ぶのは誰もいないときだけだったなあ。あとは、昔の駅前みたいな誰もいない場所」
 桜の花びらが鼻の先を掠めていく。その花びらに、川沿いの道まで来ていたことに気がつかされた。ライトアップされた通りは大勢の人で賑わっていた。そういう時間帯なのか、カップルがやけに目立つ。
「綺麗だね、桜」
 そう言いながら、風で乱れた髪を彼女は手で軽く整える。
 もう少しゆっくり話がしたいな、と思ったときだった。今まで空気だった空腹が、急にその存在を主張し始める。コレを利用しない手はあるまい。
「すこし、何か食べない?」
 通りに面した喫茶店を指さして、彼女に提案する。