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「私もお母さんに外で食べてくるって言ってくるから、少し待ってて」
「うん、待ってる」
 駆け足で自分の家へ向かう彼女を見送る。
 そういえば、そろそろ川沿いの桜並木が見頃かもしれない。春休みに入ってからは歩く機会がなかったから、人づての情報だけれど。
 彼女が門扉を開けて出てくると、ちょうど街灯に明かりがともった。
「じゃあ、行こうか」
 彼女が隣に並ぶ。
「どこに連れてってくれるの?」
「まずは駅前かな。とりあえず」
「大きなスーパーがあったよね。まだある?」
「あるけど、空き地はほとんどマンションが建ったよ」
「それって、たまに柵の隙間から入ったりしてた場所?」
「そう。結構憶えてるんだ」
「まあね」
 それから昔のこととか、あるいは彼女の引っ越した先での話を聞きながら駅まで歩いた。せいぜい数分のことだ。
 それにしても、いったいいつの間にこの街は変化しただろうか。駅前のマンションが建ったのは小学生の頃だ。でもそれが何年生だったか、と聞かれるともうわからない。一般に必要なのは現在の地理だから、仕方がないのかな。
「もっと小さな街だと思ってたけど。けっこう賑やかだね」
 それが彼女の感想だった。
「新しいマンションの一階がテナントになってるからそう見えるのかも」
 飲食店の占める割合が高いが、アクセサリショップやブティックも混ざっている。
「うん。お店が増えたのは大きいね」
「それから、やっぱり学校ができたからかな」
 この街に僕の通っていた学校ができたのは、数年前の話だ。駅から住宅街を挟んである山の中腹に建っている。
「私の通う学校だ」
 それは初耳だけど。
「……行ってみようか?」
「いまから?」
「うん。たぶん、去年使ってたクラスの窓なら鍵が壊れてるから」
「おもしろそうだね。行こう」
 駅前の散策をしつつ学校の方へ。
「手、繋がない?」
「どうして?」
 少しだけドキッとした。いま彼女を見ると、それも仕方ないんじゃないかな、とさえ思える。それくらい、可愛かった。
「少し寒い」
「……それなら」
 彼女の手を握ろうとする。
「えいっ」
 その手を急に引っ張られた。いつの間にか、腕を組んでいる。
「うわ。私よりも冷たいよ、手」
「そんなことより、少し恥ずかしいんだけど」
「嫌だった?」
 上目遣いでそう聞いてきた。反則だな、と思う。