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P4

 監視カメラの視線を縫うように進み、校舎裏までたどり着く。
「これ、帰るとき大変じゃない?」
「帰るときは警備の人に挨拶をして帰ればいいよ」
 校舎の中程にある教室の、後ろから二枚目の窓を軽く押しながら滑らせる。
「そんなもの?」
「この時間なら忘れ物を取りに来ました、とでも言えば」
 腕時計を確認すると、時刻は八時を過ぎたところだった。十分言い訳の通じる時間だ。
 先に窓から教室の中へ入る。久しぶりの教室だ。
「登れそう? バーに手をかけて、壁を蹴れば楽に入れるけど」
「やってみる」
 彼女はそういうと転落防止用のバーを握り、地面を蹴り一気に両足をサッシに載せた。
 一瞬下着が見えたが、いや、何も見えなかった。
「意外と簡単ね」
 そういうと彼女は、軽やかに教室の床へと着地した。
 それからしばらく校舎の中をうろついた。さすがに特別教室はどこも鍵がかかっていて入れなかったけれど、誰もいない夜の学校はなんとなく不気味で、それが楽しいのかな、とも思った。
「行きたいところはある?」
「屋上に行けるなら、行ってみたいな」
「屋上ね……開いてるかどうかわかんないけど。行くだけ行ってみようか」
 階段を登り、最上階の三階を超えてさらに上の、屋上への出入り口を目指す。
 鉄製の大きな扉のノブを掴み、ゆっくりと捻り押す。ガシャン、という鉄のぶつかる音がしただけだった。何度か試しても、重い音が響くだけ。
「仕方がないね」
 という彼女の声は、すこし残念そうだった。
「うん。これから通うなら、いつか上がる機会もあるだろうし。その時のお楽しみってところかな」
 三階の廊下まで戻ると、隣の校舎を巡回している警備員の明かりが見えた。柱の影に入り腕時計に目をやると、既に九時十分だった。九時の定期巡回か。
「どうしたの?」
「警備員の巡回で……さっさと退散した方がよさそう」
「見つかるとマズい?」
「見つからないに越したことはないけど」
「じゃあ、さっさと退散しよう」
 幸い、警備員の巡回ルートは暗記していた。今日も同じルートとは限らないけれど、いままで違った試しがない。なにか事件でも起これば変わるかも。