+day(4)
 階段の踊り場に立つ女と、目があった。
 ゆっくりと立ち上がり、こちらに銃を向ける女と対峙する。
 肩まで伸びた金色の髪。
 写真では分からなかった、鋭い紺碧の瞳。
 黒いジーンズを履き、その上に使い古した白いタンクトップを着ている。
 見た感じの年齢は17,8といったところ。
「エイリファス……やっぱり偽名か」
――俺は、この女を知っている。
 無いはずの面識が、そこに有った。
「そう……あなたもこのゲームのプレイヤーなのね」
「ゲーム……何の話だ?」
「数年前に始まった、ゲームとは名ばかりの潰し合い。知らないとは言わせないわ。耳にしたことくらいあるはずよ」
 確かに耳にしたことは幾度かある。
「……つまり、俺はその駒として雇われた、と?」
「断定はできないけれど。それで、あなたは私を殺す?」
「そうだな……お前はエイリファス・クロイツでは無いだろう。なら殺す理由はない」
 それでも銃を降ろさないのはまだ警戒してるからで、殺そうとしたら反撃する、という意思表示。
「……そう。なら良かった。今もそうだけど、勝てる気がしないわ」
 そう言って、銃を降ろし、階段を降りてくる女。
 それを見て、こちらも銃を降ろす。
 一番下まで来て、女はこんな事を言った。
「それなら、そうね。……私と手を組んでくれないかしら?」
 そう言う彼女の左腕には、朱く血の滲んだ包帯が巻かれている。
「ああ、いいぞ」
「……え? ホントに?」
 そう言う彼女の顔は、驚きに満ちていた。
「知らない仲じゃないし。それよりその傷……」
「ああ、これ? 大丈夫」
 包帯の巻かれた左腕を右手で押さえる。
「そうか、ならいい」


 刻々と色を変える空は、明け方そのもので。
 女がコーヒーの入ったコップを2杯持って、こっち――食堂にある4人掛けのテーブル――にくる。
「朝ね」
 こちら側に片方のカップを置き、ちょうど反対側に座る。
「……朝だな」
 エレンは、と言うと先程会話してる時からだろう、居間のソファーで寝ている。
「…………」
「そういえば、名前なんて言うんだ」
「そういえば、まだ言ってなかったっけ。……そうね、エイリファスでいいわ」
「……そうか」
 殺すのを辞めた理由が解消されたような気がするが、これは愛称と言うことで。もともと、彼女だとわかった時点で殺す気は無くなっていたし、そもそも殺すことが好きな質ではない。
「あなたは?」
「名前か? そうだな……今はジャーヴィスって事になってるな」
「ジャーヴィス、ね」
「……さて、これからどうするんだ」
「これから? 別に帰っていいわよ」
「は?」
 予想しなかった返答に、戸惑う。
「だから、まだ狙う相手も決まってないし、しばらく家で休んでて」
……ああ、そういう事か。
「でもま、もう少しゆっくりしていってよ。刺客以外の客が来たのは久しぶりなの」
 でも最初は刺客だったか、と付け足して。
「わかった。
それじゃ、お昼頃まで居ようかな」
「ええ、そうして」
 話している間、彼女――結局、エイリファスだっけ――はずっと穏やかな顔をしていた。