+day(3)
 大通りを曲がると、すぐにその白い家が見えた。
「アレですね」
「だな」
 門から玄関までは見た感じ10メートル程。玄関のドアはダブルロック。
 庭の周りの柵は腰ほどの高さで、簡単に飛び越えられる。
 二階建て。中の様子はわからない。
 自動車は1台のみでハッチバック型。
 周りに狙撃できそうなポイントはない。
「狙撃は無理みたいですね」
 エレンが周りを見ながら言う。
「だな。隠れて狙えそうな場所が無い」
「突撃します?」
「いや、騒ぎになるし」
「殺した時点で騒ぎになります」
「……それもそうだな。じゃ、今から突撃するか?」
 持っていたアタッシュケースを下ろし、ふたつのロックを跳ね上げる。
 中の銃に消音器を取り付け戦闘準備。
「はい」
 そう言ってスカートの下から銃を取り出すエレン。
(……どこに隠してんだよ)
「何か言いましたか?」
「いや、何も。それよりその銃」
「これですか」
 銃を持った右手を小さく振る。
「そう、それ。大きすぎるんじゃないか?」
 手に持っているのはスタームルガーP85。
「そうでも……ないですよ」
「いや、重いだろ」
「……少し」
「だろうな」
「でも、十分に扱えます」
「それならいい。……じゃ、始めるか」
 白く塗られた柵を飛び越え庭に入る。
 それに続いてエレンも柵をひょいと飛び越えた。
 姿勢を低くし、庭を横切って玄関へ。
「どうしますか?」
 後ろから、エレンの声。
「そうだな。まず中に入らないと」
「この扉は……壊しますか?」
「少しだけな」
 扉は木製だった。
 中央に大きなガラスがはめ込まれている。
 その大きなガラスに銃口を近づけた。
「下がって」
 エレンにそう言いつつ、自分もドアから数歩離れる。
 そして、引き金を引いた。
 消音器の効果で、音はかなり減耗されている。が、それでも完全に消す事はできず、完全に消そうとする努力もしないのだからこのレベルで諦めるほかない。
 ガラスの割れた所から慎重に手を差し込み、サムターンを回す。
「……よし、開いた」
「強引ですね」
「いや、まぁ突撃ですから」
 扉を開け中に入る。
 入った正面は壁、右に食堂、左に居間が見える。玄関兼廊下らしい。
「エレンは左の居間で待機。一階を調べてから二階に行く」
「……わかりました」
 エレンが居間に入って行くのを見て、こちらも動き出す。


 右には、庭に面した大きなガラス窓。左には4人掛けのテーブル。
 テーブルは入ってきた側の壁に着けられ、その壁側に液晶テレビとラップトップ型のパソコンが置かれていた。
 それ以外には何も載っていない。
 オープン型対面式のキッチンには、あるべき物が整然と並べられ殺風景。
 人はいない。
 テーブルを挟んで反対側の扉から出る。
 そこには右側、つまり玄関と反対側に階段があり、奥に廊下が続いている。
 階段を無視して廊下を進もうとした時。
 背筋を走る、少しでも触れたら切れてしまう蜘蛛の糸のようなそれは
――殺気。
 姿勢を低くしながらの反転、同時に片膝を立て銃を構える。
 階段の踊り場に立つ女と、目があった。