troia
+day(2)
店を出た後、家に直行した。
勿論仕事のツールを取ってくる為である。
その後はフリーウェイに乗り、ここまで約2時間。
日が落ちて、周りも暗くなってきた。
男から預かった少女は、後部座席で静かに座っている。
「お前、名前何って言う?」
「……へ?」
バックミラーを調節して見ると、少女の驚いた顔が映った。
「だから、名前。言えないのか?」
「……わからない」
「はぁ?」
「……イレブンって呼ばれてました。けど、名前じゃないと思う」
「……そうだな。それは名前じゃない」
それは、ただの管理番号。
「えっと、だから自分の名前は……わかりません」
「そうか。だがこのままでは勝手が悪い。こっちで名前を付けてもいいか?」
「……いいですよ。別に」
そうだな……
「エレンってのはどうだ?」
「それが私の名前……ですか?」
「嫌なら他のを考えるけど」
「いいです。エレン、ですか。気に入りました」
「そうか。なら良かった」
「あなたの事は、なんて呼べばいいのでしょう?」
「え? ああ、そうか」
名前、か。
「……それで、名前は?」
「そうだな……無い」
「え?」
「あったけど、忘れた。憶えてない」
「自分の名前って、忘れる物ですか?」
「偽名ばっかり使ってるとね、どれが本物だかわからなくなるんだよ」
「それじゃ、私が付けてもいいですか?」
「ん? まぁ、そうだな。好きなように」
「それじゃ……ジャーヴィス、なんてどうですか?」
「長いな」
「ヴィスって呼びます」
「……ああ、それでいい」
なかなかさっぱりしていて良いと、素直にそう思えた。
夜9時14分――残り85時間16分
紙に書かれた場所に着いた。
人口約5,000人の村である。
村は東西に走る一本の大通りと、そこから伸びる小道で分けられている。
さて、女――エイリファス――の家は、村の東の入り口からみて右側五本目の道を曲がって突き当たりにある。
とりあえず大通りの脇に車を停め、座席を傾けて仮眠の準備を始める。
「仕事は何時(いつ)からです?」
と、後ろからエレンが話しかけてくる。
「ん? ……まだ早い」
「ここで寝るのですか?」
「そうだ……あー、冷えそうだな」
そう言って、車を降りる。トランクから毛布を二枚取り出し、再び運転席に。
席に座ってから、後ろのエレンに一枚渡した。
「これ使い」
「……ありがとうございます」
「じゃ、おやすみ」
瞼を閉じると、すぐに眠りへと吸い込まれた。
明朝4時42分――残り76時間48分
エレンを起こさないよう、こっそりと車から降りる。
今回は現場の下見だけ済まして帰る予定。なのだが念のためSW M39と消音器の入ったアタッシュケースを持ち出している。
車から十数メートル離れた所でふと思う。
少女、エレンに現場を教えるのも仕事だったではないか。
その場で深いため息を吐き、車へと戻る。
後部座席の扉を開けると平和な寝顔の少女が一人、毛布にくるまり丸くなっていた。
「お〜い。起きろー、エレン。仕事だぞー」
肩を揺する。
「うん……えっと、おはようヴィス」
ゆっくりと目を開ける。
「おはよう。仕事だよ、さぁ起きて」
「わかった」
そう言うとゆっくりと体を起こし、車を降りる。
「今からは下見に行くだけだからな」
車のドアを閉めながら言う。
「わかりました」
シャツのシワを伸ばしながら答える。
「よし、村民に見られてもソワソワしないにように」
「ハイ」
「それじゃ行こう」
エイリファスの家へと歩き出す。
勿論仕事のツールを取ってくる為である。
その後はフリーウェイに乗り、ここまで約2時間。
日が落ちて、周りも暗くなってきた。
男から預かった少女は、後部座席で静かに座っている。
「お前、名前何って言う?」
「……へ?」
バックミラーを調節して見ると、少女の驚いた顔が映った。
「だから、名前。言えないのか?」
「……わからない」
「はぁ?」
「……イレブンって呼ばれてました。けど、名前じゃないと思う」
「……そうだな。それは名前じゃない」
それは、ただの管理番号。
「えっと、だから自分の名前は……わかりません」
「そうか。だがこのままでは勝手が悪い。こっちで名前を付けてもいいか?」
「……いいですよ。別に」
そうだな……
「エレンってのはどうだ?」
「それが私の名前……ですか?」
「嫌なら他のを考えるけど」
「いいです。エレン、ですか。気に入りました」
「そうか。なら良かった」
「あなたの事は、なんて呼べばいいのでしょう?」
「え? ああ、そうか」
名前、か。
「……それで、名前は?」
「そうだな……無い」
「え?」
「あったけど、忘れた。憶えてない」
「自分の名前って、忘れる物ですか?」
「偽名ばっかり使ってるとね、どれが本物だかわからなくなるんだよ」
「それじゃ、私が付けてもいいですか?」
「ん? まぁ、そうだな。好きなように」
「それじゃ……ジャーヴィス、なんてどうですか?」
「長いな」
「ヴィスって呼びます」
「……ああ、それでいい」
なかなかさっぱりしていて良いと、素直にそう思えた。
◇
夜9時14分――残り85時間16分
紙に書かれた場所に着いた。
人口約5,000人の村である。
村は東西に走る一本の大通りと、そこから伸びる小道で分けられている。
さて、女――エイリファス――の家は、村の東の入り口からみて右側五本目の道を曲がって突き当たりにある。
とりあえず大通りの脇に車を停め、座席を傾けて仮眠の準備を始める。
「仕事は何時(いつ)からです?」
と、後ろからエレンが話しかけてくる。
「ん? ……まだ早い」
「ここで寝るのですか?」
「そうだ……あー、冷えそうだな」
そう言って、車を降りる。トランクから毛布を二枚取り出し、再び運転席に。
席に座ってから、後ろのエレンに一枚渡した。
「これ使い」
「……ありがとうございます」
「じゃ、おやすみ」
瞼を閉じると、すぐに眠りへと吸い込まれた。
◇
明朝4時42分――残り76時間48分
エレンを起こさないよう、こっそりと車から降りる。
今回は現場の下見だけ済まして帰る予定。なのだが念のためSW M39と消音器の入ったアタッシュケースを持ち出している。
車から十数メートル離れた所でふと思う。
少女、エレンに現場を教えるのも仕事だったではないか。
その場で深いため息を吐き、車へと戻る。
後部座席の扉を開けると平和な寝顔の少女が一人、毛布にくるまり丸くなっていた。
「お〜い。起きろー、エレン。仕事だぞー」
肩を揺する。
「うん……えっと、おはようヴィス」
ゆっくりと目を開ける。
「おはよう。仕事だよ、さぁ起きて」
「わかった」
そう言うとゆっくりと体を起こし、車を降りる。
「今からは下見に行くだけだからな」
車のドアを閉めながら言う。
「わかりました」
シャツのシワを伸ばしながら答える。
「よし、村民に見られてもソワソワしないにように」
「ハイ」
「それじゃ行こう」
エイリファスの家へと歩き出す。