troia
+day(7)
なんだか、急に疲れた。
暗い路面がヘッドライトの光に照らし出され、その上に描かれた白線は車体の下へと吸い込まれていく。
男がアパートへと戻ったのは午後7時のことだ。
ベッドルームまで行く気力もなく、玄関から直に見ることの出来る白いソファーに倒れ込む。
鍵は、閉めていない。
閉めていないと言うより、入ったときに閉め忘れ、そのためだけに玄関まで行く気力が無いだけだが。
瞼を閉じるとすぐに眠気は訪れ、疲れた精神を闇へと攫っていく。
男の部屋の扉が再び開かれたのは、深夜2時。
入ってきたのは10歳ほどの少女。
手には冷たいナイフ。その冷たさは生物の生を奪う為か。
部屋の鍵が開きっぱなしであった事は、彼女にとって予想しなかった幸運であり、また不幸でもあった。
入って正面の白いソファーに向かって歩いていく少女。
虚ろな目つきで歩を進める。
そして、ソファーの前で、止まり、ゆっくりと、ナイフを、構えて
一気に突き刺した。
そのまま崩れ、駄々をこねる幼児のように泣きじゃくる。
そして、後ろから近寄る影。
◇
「どうした?」
腰を屈めて、泣きやまないエレンの頭に手を乗せ話しかける。
「……ふぇ?」
こちらとソファーを交互に見比べる。ソファーの上には丸められた毛布と、それに刺さったナイフ。
「どうした?」
エレンが俺を殺す為に来たのは確かなのに、何をしているのだろう。
「…………」
エレンは下を向いて話さない。
目を覚ましたのは十分ほど前。嫌な予感で目を覚まし、玄関からソファーのある居間まで続く廊下のクローゼットの中に身を隠した。
暗かったから、毛布と人間の違いに気づかなかったのかも知れない。実際、それを狙って毛布を丸めておいたのだが。
「……貴方を殺せ、と命令されました」
ぽつり、と呟く。
「殺すまで帰ってくるなと。でも、無理だった。私は貴方を殺したくないし殺せない」
「……それなら殺さなければいいじゃないか」
そんな単純な事じゃないと理解している。
「殺さなければ、帰らなくてもいいんだ」
それでも、思った事をそのまま言う事しか出来ず。
「でも、家なんかありません」
「ウチで良ければ、いつでも使っていいよ」
「……ありがとう…ござます」
「いいよ……別に」
なんだか、妙に照れくさかった。
あれから、太った男との接触はゼロ。
もともと一人暮らしには少し大きな部屋だったので、子供が一人増えても狭くは感じないし、生活にもコレといった変化はない。
だが全く変わってない、といえばそれは確実に嘘になる。
例えだが、今まで無彩色だった生活に少しだけ色が付いた。
そんな感じ。
アパート近くの公園の木は紅い葉を散らし、冬がすぐそこまで迫っていることを視覚に訴える。
暗い路面がヘッドライトの光に照らし出され、その上に描かれた白線は車体の下へと吸い込まれていく。
男がアパートへと戻ったのは午後7時のことだ。
ベッドルームまで行く気力もなく、玄関から直に見ることの出来る白いソファーに倒れ込む。
鍵は、閉めていない。
閉めていないと言うより、入ったときに閉め忘れ、そのためだけに玄関まで行く気力が無いだけだが。
瞼を閉じるとすぐに眠気は訪れ、疲れた精神を闇へと攫っていく。
◇
男の部屋の扉が再び開かれたのは、深夜2時。
入ってきたのは10歳ほどの少女。
手には冷たいナイフ。その冷たさは生物の生を奪う為か。
部屋の鍵が開きっぱなしであった事は、彼女にとって予想しなかった幸運であり、また不幸でもあった。
入って正面の白いソファーに向かって歩いていく少女。
虚ろな目つきで歩を進める。
そして、ソファーの前で、止まり、ゆっくりと、ナイフを、構えて
一気に突き刺した。
そのまま崩れ、駄々をこねる幼児のように泣きじゃくる。
そして、後ろから近寄る影。
「どうした?」
腰を屈めて、泣きやまないエレンの頭に手を乗せ話しかける。
「……ふぇ?」
こちらとソファーを交互に見比べる。ソファーの上には丸められた毛布と、それに刺さったナイフ。
「どうした?」
エレンが俺を殺す為に来たのは確かなのに、何をしているのだろう。
「…………」
エレンは下を向いて話さない。
目を覚ましたのは十分ほど前。嫌な予感で目を覚まし、玄関からソファーのある居間まで続く廊下のクローゼットの中に身を隠した。
暗かったから、毛布と人間の違いに気づかなかったのかも知れない。実際、それを狙って毛布を丸めておいたのだが。
「……貴方を殺せ、と命令されました」
ぽつり、と呟く。
「殺すまで帰ってくるなと。でも、無理だった。私は貴方を殺したくないし殺せない」
「……それなら殺さなければいいじゃないか」
そんな単純な事じゃないと理解している。
「殺さなければ、帰らなくてもいいんだ」
それでも、思った事をそのまま言う事しか出来ず。
「でも、家なんかありません」
「ウチで良ければ、いつでも使っていいよ」
「……ありがとう…ござます」
「いいよ……別に」
なんだか、妙に照れくさかった。
◇
あれから、太った男との接触はゼロ。
もともと一人暮らしには少し大きな部屋だったので、子供が一人増えても狭くは感じないし、生活にもコレといった変化はない。
だが全く変わってない、といえばそれは確実に嘘になる。
例えだが、今まで無彩色だった生活に少しだけ色が付いた。
そんな感じ。
アパート近くの公園の木は紅い葉を散らし、冬がすぐそこまで迫っていることを視覚に訴える。
《the END》