Trash Basket Notebook
--page12:梯子

追いかけてくるいくつかの足音を後ろに聞きながら、屋上への扉を押し開ける。
幸いにも、その屋上に柵はなかった。 ともかく縁まで走る。
下を見ると、墜ちたら即死の距離の先に豆粒のような人間が見えた。
横を見れば、数メートル下がった所に隣のビルの屋上がある。隙間は気にするほど無い。
扉を開く音がして振り返ると、追いかけてきた警官が屋上へ出てきた所だった。
時間がない。
少し下がって、隣のビルへ跳んだのは数秒後のことだ。
脚が地面を離れてから、隣のビルが意外と低かったことに気が付く。
差は……2メートルくらいあるかもしれない。
それでも跳んでしまったモノは仕方がない。
――体が、ゆっくりと、墜ちていく。
着地は、以外と上手くいった。
足を捻ることもなく、無事に着地ができたのは日頃の行いがよかったからだろうか。
日頃の行いがよければ警官に追われることなんかないのだが。
すぐに非常階段を降りようかとも思ったが、下には警察がいる。
屋上を見回す。あまり広くなく、植物のプランターが多く置いてあった。回りの建物はこのビルよりも高く、飛び移れそうな屋上は見えない。
ガシャン、という音がして非常階段の扉が開き、二人の警官が入ってきた。こっちにむかって駆けてくる。
逃げ道はあった。
屋上の端に立っている煙突まで走り、外壁に取り付けてある梯子をゆっくりと梯子を登っていく。
煙突の頂上は思ったよりも広かった。座って弁当が食べられるくらいの広さだ。隣のビルの屋上は、ここよりすこしだけ低く、そこまでの距離は1メートルも無い。
慣れというのは怖いモノで、ここまでくると、恐怖も何も感じずに跳ぶことができた。
今回は段差がない分、着地が楽だった。
広い屋上で、生活感はあまり無い。
警察がくる前に移動しようと次の飛び移り先を探して見回すと、ちょうど隣の、ピンク色のビルの壁に梯子があった。
少し距離はあるが、走って飛びつけば大丈夫だろう。
そう思って跳んだ。
脚で壁を蹴り、衝撃を緩めてから梯子を掴む。やってみると意外にできるものだな、と思った。
梯子の下の暗い路地では、青いゴミバケツが倒れて中身を散乱させている。
ここから落ちたら、あのゴミバケツのように俺も中身を散乱させることになるのだろうか。
どこかビルの中に入れそうな所を探すが、見当たらなかった。
上の梯子も途中で途切れているし、もとの屋上に戻ろうとしても戻れない。
次第に手が痺れてきて、掴まっているのが辛くなる。
気が付くと、自分の体は壁から離れていた。
遠のいていく意識の中で最後に見たのは見たのは、汚い中身を散らばらせる、青いゴミバケツだった。

たなです。コイツは旧ブログで1月22日に公開したヤツです。
これより少し前の時期のヤツは……正直読むのが辛いですね。まぁ、世に言うブランクというヤツだったんでしょう。思うように書けなかったですし。
で、このころからまだマシになったかなぁ。よくわかりません。
いま、普通に読めるのは1年以上前の、この部分に「お気に入り」って書いてあるものだけかもしれない。
懐かしいなぁ。
ブランクを抜けたこれからは、より一層精進していく次第です。よろしくおねがいします。
(c) 2007 tanaka.