Trash Basket Notebook
--page08:電車

終点の一つ手前の駅から肩掛けカバンを一つ持って上りの電車に乗る。
使い慣れた駅、人はあまりいない。
窓の外を、田んぼと白いブロック型の建造物が入り交じった風景が流れていく。
田んぼばかりののどかな風景ではなく、中途半端に近代建築が混ざっている所が、現代日本の田舎、という感じをかもちだしている。
くたびれた七人掛けの青いシートに座り、先日買った文庫本をカバンから取り出して読み始める。
――男は、終点に近い駅で上りの電車に乗った――
――乗ってから何駅がしたところで、若い女が乗り込んでくる――
ちょうど、列車が停止する。屋根の無いホーム。
大学生風の、若い女が乗った。
列車は再び走り出す。
しばらく読み進めると、小説と今自分のいる状況の奇妙な合致に気が付く。
――しばらくして隣の車両から若い男が移ってきた――
――丸いメガネをかけて、小さく口を動かしている。……まぁ、世の中にはいろいろな人が居る――
後ろの車両から男が移ってきた。口を小刻みに動かしている。
手には新聞紙で包んだ何かを持っていた。
その男は車両の入り口で車内を見わたしている。
――男は車内を見回すと、女に近寄り、おもむろに新聞紙を破った――
ビリビリ……という音が聞こえた。女の方を見ると男が新聞紙を破っている。
本に戻る。
――中に入っていたのは包丁だった。男は何か呟くとその女の脇腹にズブリ、と――
包丁を突き刺した。
女の体から包丁が抜かれる。血が飛んだ。
男は、包丁の刃に付いた真っ赤な液を舐める。
――男はこちらに向かって歩いてきた――
カツ、カツ、という足音。マズイ、と頭では理解しているが体が反応しない。
足音はどんどん大きくなる。
視線を落とし、続きを読む。
――間一髪で体が動く。私は急いで先頭車両へと向かう。――
間一髪で体が動く、宙を斬った包丁が座席の端のポールにぶつかった。
そう、先頭車両へ。
――運転手は死んでいた。列車は速度を上げる――
――操作盤のレバーは壊れていた――
――暴走列車だ、と思った――
――振り返れば、赤く染まった銀色の刃を舐めている男――
――俺は、ここで死ぬのか――
本を閉じて、後ろからやってくる男を睨む。
ああ、本当に、ここで、俺は。
……運転手が電話で通報、列車を緊急停止させる事によって事件は終わる。
――現実と虚空の境界は何処だ。
さて、最後に青年は確認を怠った。
そう……「現実」で運転手は殺されていない――

 はい、どうもtanakaです。
 なんつーかまた変なのが出来ました。
 え〜っと、かなり分かりにくくなってるけどつまり「本と現実の区別が出来なくなって早まっちゃったけど、本当はもう少しだけ生きていれば助かったかも知れないね」って話です。
 えー、電車には安全装置がありまして「小説世界」のような状況だと確実にブレーキが動くハズなんですね。まぁそこは不具合と言うことで。
(c) 2006 tanaka.