Trash Basket Notebook
--page07:消滅

夜中の1時をまわった頃。静かに家を出て、駅前のメインストリートへ向かう。
用事はない。ただ、歩くだけ。
春の夜の、冷たい風が肌を撫でていく。
誰もいない道を歩く。
この時間だと、もう終電も行っただろう。
サクラが綺麗な公園に向かった。幼い頃からよく遊んだ、懐かしい場所。
隅に置かれた遊具。
こんな時間に、遊んでいる子供はいない。
当然だ、夜中だから。
――すこし、眠い。
ベンチに寝転がり、瞼を閉じる。
深く、暗い空間に転がっていく感覚。
底まで墜ちる。
――真っ暗で。
上も下も判らないけど、確かに墜ちていた。
底までは、どれくらいあるのか。
そもそもこの空間に底はあるのか。
どこまでも無限に広がっているんじゃないのか。
――気が付けば、白い空間に浮かんでいた。
「……あ」
思わず声が出る。
眼前に広がる青空、雲一つ無い晴天。
「……夢か」
起きあがり、声に出す。時刻は午前11時。
帰ろう、と思った。
誰もいない道を歩く。
だーれも、いない。
いなかった、だれも。
いないんだ、誰も
いつからか、街の人が消えていって。今では、誰も――
その事実を突きつけられたくなくて、夜中に家を出た。
夜中だったら、人が居ないのは当然で。
そんな子供だまし。
ああ、なんで――


――そして、目が覚めた。
耳に届く、子供の声。
起きあがり、遊具の方を見る。
はしゃいでいる、ふたりの子供。
「……なんだ、夢か」
ぜんぶ、夢だったのか。
人は居た。OK,異常は無い。
帰ろう、と思った。


「……ねぇ」
公園から出て行く青年をみながら、滑り台の上にいる男の子が言う。
「なんだい?」
男の子を見上げて、僕は答える。
「この世界は、何処までが本当なのかな?」
少年の体は透けて、向こう側の太陽が眩しくて。
……わからない。
首を振って、彼の質問に答えた。
少年の下半身は、もう既に消えている。
「あの人は、いつまでここにいるのかな」
少年は最後にそう言うと、溶けるように消えてしまった。
本当に、この世界は、


どこまでが夢で、どこまでが現実か。
或いは、全て夢か。
或いは、全て――

はい、tanakaです。
今回、製作時間は約40分。
なかなか良い感じの時間で、不思議なのが出来た気がします。
なんか、うん。ほんとに、全部夢だったらいいのに、って思うことありますよね? でも現実だから、取り返しがつかないからおもしろいのかも知れない。リセットができないスリル、みたいな。
(c) 2006 tanaka.